『三鷹文学散歩』発刊30周年記念展示紹介(その2)

  • 掲載日2020年6月5日

三鷹図書館(本館)2階展示コーナーで開催予定だった企画展示の一部をウェブ公開します。
今回は、資料紹介2&3です。
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展示資料紹介2

今官一(こん・かんいち)著 『幻花行』(署名本)

P1110126幻花行表紙

P1110125幻花行サイン宛名消去

P1110127幻花行帯のみ

今官一(1909(明治42)年12月8日生、1983(昭和58)年3月1日没)は弘前市生まれのいわゆる津軽文士の一人です。同郷の太宰治とは同い年で、昭和8年に創刊された『海豹』から、『青い花』『日本浪漫派』まで一緒に同人誌に参加。のちに太宰が亡くなった際、忌日を「桜桃忌」と命名したのは今官一でした。

官一は戦時中の昭和19年、応召を受け戦艦「長門」に乗艦しており、展示の『幻花行』(昭和24年・文潮社)はその時の乗員体験をもとに書かれました。口絵(肖像写真)には署名と、早稲田の露文学科に在籍したこともあったためか、右上にロシア語の文言(「おやすみなさい」の意)が見られます。

「幻花行」出版記念会御案内葉書

P1110134幻花行出版記念会案内葉書2

これは昭和24年8月に催された同書の出版記念会案内葉書で、この作品が第1回横山利一賞の候補作だった旨が記されています。(受賞作品は大岡昇平の『俘虜記』)。発起人には宇野浩二・草野心平・井伏鱒二などとともに、この前年に亡くなった太宰治の名前もあります。亀井勝一郎・吉田一穂もまた『三鷹文学散歩』に収録された作家であり、三鷹ゆかりの資料としても貴重な1枚です。

官一は昭和17年から40年まで現在の上連雀8丁目に居住し、その間に書き上げた『壁の花』 (昭和31年)で第35回直木賞を受賞しています。三鷹を去る3年前、昭和37年2月7日付の三鷹市報に「三鷹に住む誇り」という文章を寄稿しており、資料室で掲載当時の全文を読むことが出来ます。

展示資料紹介3

小林美代子(こばやし・みよこ)著『髪の花』/『繭となった女』(署名本)

P1110139髪の花表紙

P1110136繭となった女表紙

P1110138繭となった女サイン宛名消去

岩手県出身の小林美代子(1917(大正6)年3月19日生、1973年(昭和48)年8月18日没)は生前わずか2冊の単行本のみを残して亡くなったため、知る人は少ない作家かもしれません。幼い頃に家業が傾き、12歳で兄を頼って単身上京してからはさまざまな職を転々として苦労します。速記者としての職を得て井の頭に住まいを構えますが、メニエール病を発症し精神を病んでしまいます。そのころの体験をつづった『髪の花』 (昭和46年・講談社)は、閉鎖された精神病院に生きる人たちの孤独と悲しみを描いて当時大変な反響を呼びました。実質デビュー作となったこの作品で彼女は群像新人文学賞を受賞します。
かつて三鷹図書館では、文学賞受賞後に小林美代子を囲んで『髪の花』読書会が開催されました。当時の様子は『三鷹文学散歩』(集合写真掲載)の中で少し触れられており<その席で小林美代子は、自分の波乱と苦闘に満ちた過去を語り、参加者に感動を与えた>との描写があります。
その後自伝的小説『繭となった女』 (昭和47年・講談社)を発表しますが、翌年に睡眠薬で自殺。56歳の若さで亡くなります。ながらく新刊の発行はありませんでしたが、近年遺稿『蝕まれた虹』(平成26年)が烏林書林から発行されています。

参考文献

  • 『三鷹文学散歩』1990年 三鷹市立図書館
  • 『日本現代文学大事典 人名・事項編』1994年 明治書院

次回は、企画展示「太宰と弟子たち」紹介記事を公開予定です。お楽しみに♪